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東京地方裁判所 平成7年(タ)612号 判決

原告

甲野太郎

右法定代理人親権者

甲野花子

原告

甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士

藤本えつ子

被告

乙山一郎

右訴訟代理人弁護士

山下道子

主文

一  原告甲野太郎が被告の子であることを認知する。

二  原告甲野花子の訴えを却下する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項と同旨

2  被告は、原告甲野花子(以下、「原告花子」という。)に対し、原告甲野太郎(以下、「原告太郎」という。)の監護費用として、判決確定の日から原告太郎が満二〇歳に達する日の属する月まで、一か月当たり金八万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告花子は、昭和六〇年から新宿区S町の株式会社丙沢工業に勤務していたが、同年一一月中旬ころ、同社東京支店長であった被告と交際するようになり、昭和六二年二月には、原告花子は、被告との間の子を懐妊し、昭和六二年一一月三〇日、原告太郎を出産した。

2  被告が負担すべき原告太郎の監護費用としは、先の事実を考慮すると、一か月当たり金八万円とするのが相当である。

(一) 原告太郎は、現在小学校三年生であり、今後、教育費等の支出増が見込まれること。

(二) 原告花子は、職を探しては働き原告太郎の養育費用等を捻出してはいるものの、現在満四七歳であるため、今後の就職や収入に多くを期待できないこと。

3  よって、原告太郎は、被告を相手として、原告太郎が被告の子であることの認知を求めるとともに、原告花子は、原告太郎の監護費用として、判決確定の日から原告太郎が満二〇歳に達する日の属する月まで一か月当たり金八万円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告花子が昭和六〇年から新宿区S町の株式会社丙沢工業に勤務していた事実、同年一一月中旬ころから同社東京支店長であった被告と交際するようになった事実、原告花子が昭和六二年一一月三〇日、原告太郎を出産した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の主張は争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであり、これを引用する。

理由

一  請求原因1(認知請求)について

1  その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一ないし第四、第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一、二、鑑定人樋口十啓の鑑定結果、並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認定することができ、これを覆すに足る証拠はない。

(一)  原告花子は、新宿区S町の株式会社丙沢工業に勤務していた昭和六〇年一一月ころ、同社東京支店長であった被告と交際するようになり、両者は肉体関係をもつに至った。

(二)  原告花子は、昭和六二年二月ころ、原告太郎を懐妊するに至った。

(三)  被告は、原告花子に対し、昭和六二年ころから婚姻の申し入れをしていたが、原告花子は右申し入れを拒絶し、両者は次第に遠ざかるようになっていった。

(四)  その後、被告は、株式会社丙沢工業を退社し、昭和六二年五月ころ高知県T市に転居した。

(五)  原告花子は、昭和六二年一一月三〇日、原告太郎を出産した。

(六)  鑑定は、原告両者及び被告から血液を採取しDNAフィンガープリント法による検査を行ったというものである。その結果は、原告太郎と被告との間に血縁関係が無くほかに真の父が存在する確率が2.95に一〇の二〇乗を掛け合わせた人数のうちの一人という割合であり、被告と原告太郎との間に生物学的な父子関係が存在すると極めて強く推定できるというものであった。

2  前記認定の諸事実を総合すると、原告太郎は、原告花子と被告との間の子として出生したものと認めるのが相当である。

二  請求原因2(監護費用請求)について

人事訴訟手続法一五条一項は、離婚訴訟に際し、受訴裁判所(地方裁判所)が、申立により、子の監護につき必要な事項として、離婚後子の監護をする当事者に監護費用の支払いをすることを他方の当事者に対して命ずることができる旨を定めてはいる。しかし、同条項は、認知の訴えの場合に受訴裁判所に同様の権限を付与するとまでは規定しておらず、同法三二条も右一五条一項の規定を準用してはいない。そして、人事訴訟手続法一五条の規定は、監護費用のような離婚と密接不可分の関係にある事項については、本来家庭裁判所の審判事項ではあるが、受訴裁判所が離婚の当否を判断する際に併せて決定できることを特に認めた趣旨と解される。したがって、立法論としてはともかく、現行法の解釈上は、明文で許容されていない認知の訴えの場合において、併せて監護費用の負担を命じることは許されないといわざるを得ない。別途審判事件として申立をすることが、原告花子に著しい不利益ないし負担を強いるものとはいえないので、右規定を類推することはできない。

したがって、原告花子の監護費用請求は、不適法として却下を免れない。

三  結論

以上によれば、原告太郎の認知請求は理由があるのでこれを認容し、原告花子の監護費用請求の訴えは不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岡光民雄)

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